「日々、疲れているから、都会を離れて海のそばに住みたい」
そう言う人は、たいてい少しだけ遠くを見ている。
そして、ほんの少しだけ、今ここから目を逸らしている。
僕も海は好きだ。
山がパワーをくれて、海がストレスを流してくれる、なんて素敵な言葉もある。
なるほど、ロマンはある。
だが、ちょっと待ってほしい。
仕事を終えて、電車に揺られ、家に着くころには夜だ。
さあ、そこから海へ行きますか?
夜の海。
あれは癒やしというより、ほぼホラーだ。波音はサスペンスだし、足元は見えないし、なにより寒い。
「じゃあ朝!」
朝5時に起きて、出勤前に波打ち際で読書?
職場は相変わらず都会。通勤時間は増え、目覚ましはさらに早まる。
海はロマンだが、現実は目覚まし時計だ。
「じゃあ休みの日!」
それなら今でも行ける。
電車は走っているし、海は逃げない。
交通費が少し変わるくらいの話だ。
百歩譲って、毎週サーフィンかダイビングをやるなら話は別だ。
だが、多くの人は「海のイメージ」に癒やされたいだけで、「海そのもの」に向き合う覚悟まではない。
実はね。
都会でも、海辺でも、山奥でも、
どこに住んでいても一瞬で会える景色がある。
それは――空だ。
僕は東京のど真ん中、恵比寿に住んでいる。
ネオンは明るい。小さな星は消えてしまう。
だが、一等星と月はちゃんと見える。
オリオン座が見つかれば、アルデバランもすぐだ。
冬の夜には、ベテルギウス、シリウス、プロキオンを結んだ「冬の大三角形」が凛と浮かぶ。
見たこと、ありますか?
「忙しい」と言う人の共通点は、時間がないことじゃない。
余裕がないことだ。
僕が暇かというと、まったくそんなことはない。
休みは週に1日。
朝は5時半に起きて太極拳。
朝食を作り、妻を起こし、仕事へ向かう。
帰宅は21時。そこから夕食を作り、一緒に食べて眠る。
どうです?
なかなかの“売れっ子感”でしょう?
でも、星と月は観る。
月が綺麗な夜は、食後にコーヒーを淹れてポットに入れ、
ディレクターチェアを抱えて屋上へ行く。
5分でも10分でもいい。
暇だからじゃない。
「その時間を作る」と決めているだけだ。
忙しい人は、空いた時間に予定を詰める。
まるで“忙しい”をコレクションしているみたいに。
僕もサロンをオープンした頃はそうだった。
1年間、休みなし。
すると頭の中でこう言い訳が始まる。
「休んでないんだから、仕方ない」
これはいかん、と思った。
休むことは怠慢じゃない。
いい仕事をするための、大切なタスクだ。
星や月を見る余裕がない人が、
海のそばに住んだからといって、毎日きちんと海を楽しめるだろうか。
空は裏切らない。
朝も昼も夜も、そこにある。
雲の流れ、差し込む光、そして体に必要なビタミンDまでくれる、おまけ付きだ。
あのSnowManの目黒蓮くんだって、
空いた時間に星を眺めると言っていた。
彼は僕の何十倍、いや何百倍も忙しいはずだ。
それでも、見上げる。
引っ越す前に。
「忙しい」を連発する前に。
どこでも会える星と月に、
ほんの5分、会いにいってみませんか。
海は遠いが、空は、いつもあなたの真上にある。
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